書籍大臣は虚構のなかで

書籍大臣と書いて、"ほんのおおおみ"と読みます。

(3)『たくらむ技術』 / 加持倫三

たくらむ技術 (新潮新書) / 加地倫三

 

加持氏は、『アメトーーク!』や『ロンドンハーツ』などの人気番組を仕切っている人で、テレビ朝日を救った(?)男とも言われる若手(?)のプロデューサーさんです。

 

技術というのは、本来は知覚することができないものを引っ立てて探しだすことである - 哲学者のマルティン・ハイデガーの考え方です。では、「たくらむ技術」というのはなんでしょうか。企むことによって、本来は隠れているものを見つけ出すことと言えるはずです。その「本来は隠れているもの」とは、いったい何でしょうか。

 

おそらく、加持氏にとって、それは「人間」でしょう。手前味噌なことかもしれませんが、加持氏は、企むことによって「人間の人間であることの楽しさ」というものを、引っ立てて探しだそうとしているのだと思います。ただ、そのことについての記述はありませんでした。しっかりと読み込めば、氏の言葉の全体から伝わってくるはずなのですが、おそらく普通の新書の読み方をしてしまうと、「たくらむ技術」というタイトルから期待できるものは、あまり多く得られないでしょう。

 

僕が今回、偉そうに本を出した一番の理由は、テレビの仕事を1人でも多くの人に知ってもらいたい、そしてこの仕事を目指してもらいたいと思ったからです。(p.205)

 

加持氏にとって、怖い若手がいないのだそうです。アナウンサーの吉川美恵子氏が「後進が育っていない」ということに危惧して、引退後も活動を続けているのと似ている感覚かもしれませんね。そのせいもあって、著書の大半は仕事についての話です。『アメトーーク!』の裏側が気になる人にはオススメですし、テレビの裏側に入りたいという人のモティベーションには大いに役立つと思います。

 

結局、身の丈に合っていないものというのは、ダメなんじゃないか。そう思うのです。視聴者を過剰に意識して、トレンドや最新情報をいくら仕入れたところで、自分自身が「面白い」という強い感情を持たない限り、番組で活かすことはできないし、どうコントロールしていいかも分かりません。(p.36)

 

「あぶら揚げ」をテーマにしただけの1時間のトーク番組。あぶら揚げへの愛を芸人たちが語りつくす。無理があります。普通に考えれば「ないな~」と言って終わる話。…でも、僕はこういう時いつも、「逆にどうなんだろう」と考えることにしています。…そうしなければ、同じような思考の選択肢ばかりを揃えてしまうことになります。(p.40)

 

もちろん「たくらむこと」のハウツーが載っていないわけではありませんが、その多くは「構成」に関することであり、ヒント程度の情報がいくつか載っているといった感じです。

 

しかし、「企む」というのはどういうことでしょうか。本書には書かれておりませんが、おそらく「どの部分をどのように好きになってもらうかを考える」という意味で使っていると思ってよいでしょう。主に『アメトーーク!』や『ロンドンハーツ』の、どの部分をどのように好きになって欲しいか、という企みを全てさらけ出している本という意味では、加持氏のたくらみ方をバラす自己暴露本というか、制作サイドのエッセイとなっています。

 

その意味で、企むことは「自己PR」に繋がっており、自分をどのようにブランディングしたいかどうか迷っている人のヒントになることはたくさん拾えるでしょう。

 

繰り返しますが、全ての人に全く不快感を与えずに番組を作るなどといったことは不可能です。見た人全員に納得してもらうことも難しい。だから、そんなことを目指しているわけではありません。ただ、「嫌な感じ」と思う人が10パーセントいたとして、こちらの工夫や配慮でそれを9パーセントに抑えることはできたかもしれない。だとすれば、そのための努力は欠かさないようにしたい、と考えているのです。(p.91)

 

「損する人」を作らない。もちろん、番組に「毒」の部分は必要です。特に「ロンドンハーツ」は、芸人同士が互いの欠点、恥ずかしいところを面に出していって、みんなで面白くするという要素が強い番組です。一定の量の毒はどうしても必要になります。でも、その毒を入れながらも、不快に思わず楽しんでもらえるように、「毒」をコーティングするにはどうすればいいのか、そこに細心の注意を払っているのです。(p.92)

 

このような「こだわり」を知ってもらえれば、番組をさらに愛してもらうことができますし、それが「このような感じで愛して欲しい」という企みと重なっていれば、「玄人化する視聴者」(p.202)にも受け入れてもらうことができるでしょう。かくいう私も、この一冊を読んで、『アメトーーク!』のことがさらに好きになりました。(1時間番組になってから構成の仕方に微妙な難を感じておりますが)。

 

「視聴者は1回しか見ないのだから、編集業務のときはなるべく観る回数を減らす」(p.112)や、「勝ち越し続けるには一定の負けを勘定に入れて、ヒットしているときに次の準備をしておけば、先細りの罠にかからずに済む」(p.70)といった、仕事に関する考え方やこだわりについての文章も散見しており、<たくらむ技術>について読みたい人には物足りないかもしれません。

 

企むことは、おそらく「下ごしらえ」(p.12)と通じているでしょう。強い目的意識と、そこから生まれてくる準備力・実行力。『Rの法則』という番組で、ヒャダイン前山田健一氏)が、「作曲のときに気をつけることは、驚かせること(意外性)だ」と言っていて、きっとあれも「企み」なのだろうと思います。

 

逆説的に言えば、「丁寧な雑さ」だとも言えるし、「気付かれないように設えること」だとも言えるでしょう。企みというのは、どこまでも雑であり、その雑さを肯定するものです。「計算だけで100点は取れない」(p.97)というように、ある程度「ラフな部分」を残しておく雑さ、番組という生き物の「アトランダムな動き」に合わせて調整していく頭脳、そういうものが加持氏にはあるような気がします。

 

本書に書かれていることは意外と真面目で、タイトルと少しかけ離れているところに、期待外れの感じはあるかもしれませんが、「加持という化け物を少しでもいいから知りたい」という自伝的な読み方をするには、とても良い一冊だと思います。

 

ありがとうございました。おわる。

 

しーゆーれーらー